福島地方裁判所会津若松支部 平成10年(ワ)55号 判決 2000年5月30日
原告
有限会社昭栄石油
右代表者代表取締役
長島昭三
右訴訟代理人弁護士
中川廣之
被告
本名正
右訴訟代理人弁護士
齊藤正俊
同
安藤裕規
同
安藤ヨイ子
同
大峰仁
主文
一 被告は、原告に対し、金二九一万八三二六円及びこれに対する平成一〇年二月二一日から支払済みまで日歩五銭の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを八分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、金二二六五万一六二一円及び内金一三五万円に対する平成九年七月一日から、内金二一三〇万一六二一円に対する平成九年九月一日から、各支払済みまで日歩五銭の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、原告が、訴外会社の連帯保証人である被告に対し、訴外会社に対する売掛金などについて保証債務の履行を求めたのに対し、被告において、一部債務の負担を争うとともに、民法五〇四条による免責を主張している事案である。
二 争いのない事実<省略>
三 争点等
争点1 原告の三報石油に対する債権額
争点2 民法五〇四条の解釈(担保権の設定前に保証人となった者への適用)
争点3 同条の解釈(担保喪失の意味)
争点4 原告の故意又は懈怠の有無
争点5 本件土地建物の価格
問題点 民法五〇四条の解釈(免責範囲確定の時期)
四 争点についての当事者の主張<省略>
第三 判断
(争点1について)
一 原告と三報石油との取引の実態等について
前記争いのない事実、原告代表者及び被告に対する各本人尋問の結果、証人高橋右吉、同鈴木正夫及び同星美枝子の各証言、甲第二号証、第三号証の一ないし八、第四号証の一ないし一二、第五、第六、第一九及び第二三号証、乙第三及び第四号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 三報石油は、ガソリンスタンドの経営等を目的に昭和六三年二月二四日設立された有限会社で、不動産登記簿上の本店の所在地は、その経営する唯一のガソリンスタンド(以下「給油所」という。)の所在地である会津若松市町北町に置かれていたが(別紙物件目録一記載の土地建物)、その代表取締役である鈴木正夫は、給油所とは別に会津若松市大町二丁目に事務所を構え(以下「大町の事務所」という。)、そこで仕事をすることが多かった。鈴木正夫は、大町の事務所で、三報石油とは別に三報商事という会社も経営していた。
三報石油の役員は、鈴木正夫、原告代表者及び被告の三人が取締役を、鈴木正夫が代表取締役を、同人の妻の美枝子(離婚して現在は星姓)が監査役を務めていた。原告は三報石油の取引先であり、被告は鈴木正夫の姉の夫であった。ただし、三報石油では、実際には、取締役会などは開かれることはなく、美枝子も監査役の仕事はせず、もっぱら鈴木正夫一人が経営にあたっていた。
美枝子は、従前は、三報石油の仕事はしていなかったが、平成七年ないし八年ころ、大町の事務所で働いていた事務員が辞めたことから、同事務所で仕事をするようになったが、三報石油の経営の詳しい内容は把握しておらず、実際にする仕事の内容は電話番と夕方などに給油所の手伝いをする程度で、営業や経理の実際は鈴木正夫が行っていた。鈴木正夫は、給油所に赴いて仕事をすることは少なく、昼間は配達などで外に出ることも多かったが、夕方には大町の事務所に戻り、次に述べるとおり、給油所から届けられたその日の売上金を受け取り会計処理をしていた。
2 高橋は、鈴木正夫から、給油所の所長に任命され、もっぱら給油所で、ガソリン等の販売の仕事を任されていたが、三報石油の支配人には任命されておらず、その旨の登記もされていない。また、鈴木正夫などが、原告代表者を含め他の者に、高橋を支配人として紹介したこともなかった。
高橋は、昭和六三年四月に三報石油に雇用され、そのころ名刺も作ったが、右名刺には、「給油所長」、「営業所長」といった表示はなされていない。
給油所で販売する商品は、主に高橋ないし給油所で働く従業員が、原告に電話で注文しており、鈴木正夫が直接注文することは少なかった。
給油所の売上金は、毎日夕方、大町の事務所に届けられて鈴木正夫が受け取り、原告などの元売業者への支払の仕事は鈴木正夫が行っており、高橋らは関与していなかった。元売業者への支払は、給油所で行うことはなかった。右元売業者への支払は、約束手形を振り出し、支払期日に三報石油の当座預金口座から引き落とす方法で行われていた。
3 三報石油は、元売業者への支払資金に窮することが何度かあり、鈴木正夫は、原告代表者から、手形の決済資金を借り入れて充てたことがあった。
三報石油は、平成九年二月、一回目の手形の不渡りを出したが、同年五月二八日支払期日の手形の決済資金が用立てられずにいた。こうしたことから鈴木正夫は、三報石油の経営に行き詰まり、心身ともに疲労し、現実からの逃避を図って、同月二六日帰宅せず、家族も含め誰にも行き先を告げずに所在をくらました。
鈴木正夫は、自分が所在不明となった後、右二八日が支払期日の手形は不渡りとなって三報石油は倒産し、その営業も中断し、後は債権者らが債権の回収を図って三報石油は整理されるであろうと考えていた。鈴木正夫は、所在不明となるに際し、妻の美枝子、当時三報石油の従業員であった息子、高橋及び原告代表者を含め、第三者に三報石油の経営を委託したり、代理権を授与したことはなく、三報石油の代表者印や預金通帳等も大町の事務所に置いたままにしていた。
なお、鈴木正夫は、これ以前の平成四年ないし五年ころにも、家族や従業員に行き先を告げずに、金策のため東京方面に赴いたことはあったが、このときは、二、三日で自宅に戻った。
4 美枝子は、右のとおり、鈴木正夫が行き先も告げずに五月二六日に帰らなかったことから、翌二七日、電話で原告代表者に相談し、また、給油所に電話して高橋らにも知らせた。原告代表者は、大町の事務所に赴いて、美枝子らと面談したが、給油所の営業を続けるべきだと提案し、高橋ら従業員も営業の存続を願っていたので、引き続き原告から商品を購入して給油所での販売を継続することとなった。また、原告代表者は、五月二八日の手形の決済資金を用意するため、美枝子らに指示して、三報石油の預金を下ろさせたり、売掛金を回収させたりした。さらに、原告代表者は、平成九年六月一八日、美枝子に指示して、原告代表者宛に「今般有限会社三報石油代表取締役鈴木正夫が五月二六日より行き先不明のための今後の一切の処理を委任します。」との委任状を差し出せたが、美枝子の三報石油に対する権限は問題にしなかった。
5 右のとおり、原告は、鈴木正夫が所在不明となったことが判明した後も三報石油に対し掛け売りで商品販売を継続したが、所在不明となる前の時期も含め、右売掛金の額は、平成九年四月分が計一〇八九万一六五八円、同年五月分が計九九二万五三八九円、同年六月分が計一一一四万五五二四円で合計三一九六万二五七一円である(原告の主張(二)記載のとおり)。
6 原告代表者は、鈴木正夫が所在不明となってしばらく経っても姿を現さないことから、三報石油による給油所の経営を止めさせようと考え、平成九年六月三〇日、美枝子との間で、本件賃貸借契約及び本件特約販売契約をいずれも合意解約し、かつ、原告の主張(四)(2)記載の相殺の合意をしたが、このときも美枝子の権限を問題にはしなかった。
原告は、その後、右給油所の施設を自ら使用してガソリンスタンドの経営を行い、高橋ら三報石油の従業員は平成九年六月三〇日付けで退職したが、その多くの者は翌七月一日付けで原告に雇用され、引き続き右給油所に勤務した。
また、原告代表者は、平成九年六月二三日付けで三報石油の取締役を辞任した。
二 以上の事実に基づいて、原告の三報石油に対する売掛金の額を検討する。
原告は、鈴木正夫自身が注文したものではないものがあるとしても、高橋は表見支配人にあたるので、その取引の効果は三報石油に帰属すると主張する。
しかし、前記のとおり、高橋は、給油所長に任ぜられていたが、営業所長の肩書きを与えられていた事実は認めがたく、また、右の給油所長の肩書きも積極的に外部に表示されていたわけでもない。そして、前記認定のとおり、原告代表者は、三報石油の取締役であったこと、平成九年五月二七日の時点で鈴木正夫の失踪を知り、その後も三報石油への掛け売りを継続したのは、高橋の権限を信じたからというわけではなく、もっぱら三報石油の給油所の営業の継続を企図したからであることを総合すると、原告代表者は、少なくとも商法四二条二項にいう悪意であったというべきである。
したがって、鈴木正夫が所在不明となった平成九年五月二七日以降に原告が三報石油に行った売買については、三報石油の代表権ないし代理権を有しない者との間で行ったものであるから、当然には三報石油に効果は帰属しない。なお、鈴木正夫は所在不明となる前も、原告への注文は、同人自身ではなく、高橋らが行っていたが、これは鈴木正夫より包括的な代理権が授与されていたものというべきである。
そうすると、原告の主張する平成九年五月分の売掛金のうち同月二七日以降に生じたもの及び六月分の売掛金は、少なくとも、被告に対し、その保証債務の履行を求めることはできないと解すべきである。
そして、平成九年五月分の売掛金のうち同月二六日までの生じた部分の金額については、これを八三二万四五二〇円とすることで当事者間に争いはない。
そうすると、原告が三報石油に請求できる売掛金額は、四月分と五月二六日までの分の合計の一九二一万六一七八円となる。
なお、原告は、その主張(四)、(五)において、相殺による売掛金額の減少を主張し、これは被告に有利な内容も含むと思われるが、前記のとおり、原告が三報石油の代理人と主張する美枝子には代理権は授与されておらず、被告も(四)の相殺の合意を全て否認しているので、右の相殺による減額は考慮しない。
(争点2について)
本件根抵当権の設定が、被告が三報石油の債務を連帯保証したのよりも、後になされたものであることは当事者間に争いがない(争いのない事実4、6)。
そこで、原告は、本件では民法五〇四条の適用は受けないと主張する。
しかし、同条は「第五百条ノ規定ニ依リテ代位ヲ為スベキ者アル場合ニ於イテ」とのみ規定し、文言上、保証契約の締結など代位権を取得すべき行為の時期が担保権の設定時期の前であるか後であるかを問題にしていない。また、担保権の設定前に保証人となった者も「弁済ヲ為スニ付キ正当ノ利益ヲ有スル者」として民法五〇〇条の代位権者と解される。そうすると、保証人となったときに、当該被保証債権について担保権の設定がなされておらず、後に担保権が設定された場合であっても、保証人としては、保証債務を履行した後、当該担保権に代位できるものと期待しているというべきであり、こうした期待は法的にも保護すべきである。一方、右のような保証人と比較し、あえて担保権を喪失ないし減少させるという自己に不利益な行為を行った担保権者を保護すべき理由に乏しい。
これらの点を総合すると、本件の被告のように担保権の設定前に保証をした者も民法五〇四条の適用を受けると解すべきである。
(争点3について)
原告は、民法五〇四条にいう担保を喪失するとは、当然無償で、あるいは、担保価値の一部を回収したのみで、なお担保価値を残したままこれを放棄した場合を指すべきと主張する。
しかし、右のように限定的に解すべき明文上の根拠に乏しいうえ、同条が、代位権者の保護を目的としていることからすると、担保権者が、当該担保権を無償で失おうと、債権の回収を図った上で失おうと、代位権者にとっては、代位すべき担保権が失われることに違いはないのであるから、原告主張のように限定的に解釈すべきではなく、特段の事由のない限り広く担保権を放棄すること等を指すと解すべきである。なお、原告は別件の判決を引用するが、本件とは事案を異にするものであり、原告の主張は採用できない。
(争点4について)
一 前記争いのない事実及び認定事実、原告代表者に対する本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。
原告代表者は、平成八年七月ころ、原告の三報石油に対する売掛債権等が相当額にのぼったので、これを一旦清算しようと考え、鈴木正夫との間で、同人が所有する本件土地建物を買い受けて、その売買代金債権と右売掛金債権等とを相殺することを合意した。
そして、原告代表者及び長島ヒロ子は、平成八年七月四日、本件土地建物を代金二八〇〇万円で買い受け、右代金の二八〇〇万円のうち、約四〇〇万円は本件土地建物に上位の根抵当権を有していた東京総合信用株式会社に対する三報石油の債務の弁済に、約五〇〇万円は原告代表者の鈴木正夫に対する個人的な貸金の弁済に、残りの約一九〇〇万円は原告の三報石油に対する売掛金債権の弁済にそれぞれ充てられ、鈴木正夫自身には現実に金員は交付されなかった。
二 原告は、原告代表者らによる本件土地建物の売買及びその後の本件根抵当権の放棄は、三報石油の負債額を圧縮するために行われたものであるから、原告が本件根抵当権を放棄したことにつき、故意及び懈怠はないと主張する。
しかし、次に述べるとおり、原告主張の事実は、右故意又は懈怠の存在を否定する事由にはならないと解する。
すなわち、根抵当権者のように、反復継続する取引によることを予定している債権者は、取引相手である主たる債務者若しくは保証人の資力又は担保目的物の価格に期待して、主たる債務者に信用を与え、それに応じて取引による利益を得ていると考えられる。そして、右債権者が、主たる債務者への債権の減額等を図るために、担保権を喪失しても、その後にまた主たる債務者と取引を行うことにより、新たに債権を取得することが可能である。
一方、保証人等の代位権者は、主たる債務者に代わって債権者に弁済しても、少なくとも担保権の把握する価値の限りで、自己の求償権を確保できるものと期待している。そうすると、主たる債務者への債権の減額等を理由に担保権の喪失を許すことは、債権者の与信拡大のために、代位権者の右の期待を害する結果となる。このように代位権者を犠牲にして債権者の保護を図るべき必要性に乏しいというべきである。
本件で問題になっている債権も、いずれも担保権の喪失後に生じたものである。
したがって、原告主張のような事実の存在をもって、本件根抵当権の放棄について、原告の故意または懈怠が否定されることはない。
三 以上の次第で、原告が本件根抵当権の放棄をしたことについては、民法五〇四条の適用を受け、被告は、右放棄当時の本件根抵当権の把握していた担保価値の範囲で、三報石油の連帯保証人としての責任を免れる。
(争点5について)
一 そこで、本件根抵当権の喪失時の担保価値、すなわち、当時、代位権者である被告が、原告による根抵当権の放棄により償還を受けることができなくなった金額を算出する。その前提として、右担保権の喪失時の本件土地建物の価格の認定が必要である。
これについて被告は、本件土地建物は少なくとも二八〇〇万円の価値を有していたと主張するが、このように評価すべき証拠に乏しい。
鑑定の結果によれば、本件根抵当権の抹消登記手続がなされた平成八年七月二三日当時の価格は、本件土地が一九九四万円、同建物が三九八万円の合計二三九二万円である事実が認められる。
二 この点について原告は、本件建物の価値はほぼ零の状態にあったと主張し、また、本件土地建物の平成八年度の固定資産評価や財産評価基準を根拠に、本件土地建物の価格は合計一八〇〇万円程度であったと主張している。
しかし、右鑑定の判断過程について検討するに、本件土地については、地域分析及び個別分析を経て前記の結論が導かれており、その判断過程に特に誤りがあるとは思われない。
そして、建物については、本件鑑定時には既に原告により取り壊されていて現存していないが、本件鑑定は「建築当時において標準的な資材・工法・仕様で建築された標準的な建物で、以降、自用の建物として標準的に維持・管理され、価格時点においては経年相応の建物であったものとして」なされており、経年による消耗等も考慮して価格が算出されている。
これについて、原告代表者本人尋問の結果や甲第二二号証には、原告の主張に沿う部分もあり、本件建物がある程度老朽化していたことは窺えるものの、取り壊し前に本件建物を撮影した写真など客観的証拠がない以上、鑑定の結果を覆すに足りるほどの証拠はないというべきである。
三 よって、本件根抵当権喪失時の本件土地建物の価格は、鑑定にしたがって合計二三九二万円であると認定する。
そして、本件土地建物の価格から執行費用である二八万五六〇〇円を控除すべきであること、及び、前記本件根抵当権喪失当時、本件土地建物には、東京総合信用株式会社が、本件根抵当権に優先する根抵当権(極度額一五〇〇万円)を有しており、当時の被担保債権額が四一六万五七二四円であったことは、いずれも当事者間に争いがないので(争いのない事実9、12)、原告が本件根抵当権(極度額三〇〇〇万円)を実行した場合に配当を受ける金額は、右の合計額である四四五万一三二四円を控除した一九四六万八六七六円と算出できる。
(問題点について)
一 本件のように、根抵当権喪失後に、その被担保債権となるべき債権が発生し、民法五〇四条が適用されて免責がなされる時期については、明文上の規定は存しない。そこで、同条の趣旨である代位権者の保護と処理の明確性の見地からすると、代位権者において、担保権者に対し、その担保保存義務を主張した時点において民法五〇四条による免責がなされると解すべきである。
二 そうすると、本件において被告が民法五〇四条による免責を受ける時期は、被告が原告に対し担保保存義務違反の主張したことに争いのない平成一〇年二月二〇日の時点といえる。したがって、被告は、右の日までに生じた遅延損害金の支払義務をも負うものである。
そして、被告が連帯保証した三報石油の債務のうち、平成九年四月分から六月分までの未払賃料の合計額が一三五万円であり(争いのない事実5)、その弁済期は前月末日であり(争いのない事実2(三))、かつ、遅延損害金の利率は日歩五銭であること(同2(四))は当事者間に争いがなく、右債務については、原告が遅延損害金の始期としている平成九年七月一日には遅滞の責任が生じていることは問題がない。
次に、売掛金債権については、争点1について判断したとおり、原告が請求できる金額は合計一九二一万六一七八円であるところ、遅延損害金については弁済期日(毎月末日締切り四五日後に支払う。)の翌日から日歩五銭の割合によることも当事者間に争いがなく(争いのない事実3(一)、(二))、右四月分及び五月分の売掛金債務について、原告が遅延損害金の始期としている平成九年九月一日には遅滞の責任が生じていることは問題がない。
三 右遅延損害金の額を算出するに、平成九年七月一日から平成一〇年二月二〇日までの総日数は二三五日、平成九年九月一日から平成一〇年二月二〇日までの総日数は一七三日である。そうすると、遅延損害金も含めた、被告が連帯保証人として履行すべき、平成一〇年二月二〇日時点での三報石油の債務額は、次のとおり、合計二二三八万七〇〇二円となる。
(一) 未払賃料の遅延損害金額
135万円×0.0005×235日=15万8625円
(二) 売掛金の遅延損害金額
1921万6178円×0.0005×173日=166万2199円(小数点以下四捨五入)
(三) 合計
一三五万円(未払賃料)+一九二一万六一七八円(売掛金)+一五万八六二五円(未払賃料の遅延損害金)+一六六万二一九九円(売掛金の遅延損害金)=二二三八万七〇〇二円
四 ところで、前記のとおり、被告が民法五〇四条により免責を受ける金額は一九四六万八六七六円に過ぎず、右の合計額に満たないので、民法四九一条にしたがって、まず、遅延損害金である合計一八二万〇八二四円の部分に充てる。
そして、右の残額の一七六四万七八五二円を、それぞれの債務の元本の免責に充てることにするが、賃料、売掛金とも弁済期が全て到来しており、かつ、遅延損害金の利率も等しいことから免責を受ける利益も等しいと考える。そうすると、民法四八九条三号にしたがい、弁済期が先に到来したものから順に免責させるべきといえるが、右賃料及び売掛金の弁済期の先後は、次のとおりである。
(項目) (金額) (弁済期)
(一) 平成九年四月分の賃料 四五万円 平成九年三月三一日
(二) 同年五分の賃料 四五万円 平成九年四月三〇日
(三) 同年六月分の賃料 四五万円 平成九年五月三一日
(四) 同年四月分の売掛金 一〇八九万一六五八円 平成九年六月一四日
(五) 同年五月分の売掛金 八三二万四五二〇円 平成九年七月一五日
そうすると、元本部分の免責に充てるべき前記一七六四万七八五二円は、右の(一)ないし(三)の未払賃料の合計額一三五万円、(四)の売掛金である一〇八九万一六五八円及び(五)の売掛金の一部である五四〇万六一九四円の免責に充てられる。
五 したがって、被告は、原告に対し、三報石油の連帯保証人として、なお、右(五)の残額である二九一万八三二六円及びこれに対する免責を受けた日の翌日である平成一〇年二月二一日から支払済みまで約定の日歩五銭の割合による遅延損害金の債務を負っていることになり、原告の請求は右の限度で理由がある。
第四 結論
以上の次第で、原告の請求は主文第一項掲記の限度で理由があるので、この限りで認容する。
(裁判官・松田浩養)
別紙物件目録<省略>